映画 原一男『極私的エロス 恋歌1974』雑感 Part.1

「家族とは、夫婦とは何か?」

「ドキュメンタリーとはコミュニケーションの一形態か?」

冒頭から意味不明。

監督である原と3年間同棲した元彼女の武田は、原との子どもを連れて突如沖縄へ旅立ってしまう。原は彼女を忘れきれず、彼女を主人公にした映画を撮影する名目で「復縁」という淡い期待を抱きながら沖縄に向かう。武田は同じ子持ちの女性(シングルマザー)と共同生活を始めていたが、同居人は恋仲になった米兵のもとへ行くために家を出ていくという。武田は同居人の彼女を引き止めるために説得するのだが、全共闘を彷彿とさせるかのような観念的な主張を延々と展開する。武田が何を言いたいかが分からないが、そのエネルギーの熱くるしさだけでも圧倒される何かがあった。結局、武田と彼女との共同生活は破綻する。

武田は程なく素性の分からない黒人米兵ポールと付き合い始める。二人の英語でのやり取りも、意思疎通がどこまで出来ているのかさえ危うい。案の定、3週間で敢え無くポールとの関係性は途絶えるも、武田はポールの子を妊娠してしまう。

原は、新しい彼女である小林を撮影のために同行させて沖縄の武田のもとに現れる。そこでどういうわけか、かつての彼女である武田とのセックスを主観で撮影する。

世界初の「ハメ撮り」の誕生だった。

程なくして新しい彼女の小林は、原の子を妊娠する。かつての彼女の武田と新しい彼女の小林は、海辺で激しく自分の思いをぶつけ合う。嫉妬、優越、不安、混乱、屈辱感がない交ぜになった女たちの仁義なきぶつかり合いを三角関係の「主犯」の原は淡々と撮影する。

武田は黒人の子どもを身ごもったことに後悔を抱きつつも生むことを覚悟する。「黒人」とやたら強調する武田に原は疑問を呈し喧嘩となる。いつの間にか原は、泣きじゃくっていた。

ここからがこの映画の分水嶺のように思われた。

前半部は原の男としてもモテっぷり(優越感)を描くものだと思っていたが実はそうではなかった。

武田は、閉塞的な米軍米兵で成り立つ沖縄経済の寄る辺のない(シングルマザーの)女性を「解放」しようとアクションを起こし続けた。そこで新たな人間関係を構築していくのだが、大きく挫折し東京に舞い戻る。原の住むアパートの汚い一室で米兵ポールとの子どもを出産する。原は、悶え苦しむかつての彼女である武田の出産を狼狽しながらもカメラを回し続けたる原。武田が悶える続ける口元にマイクを向ける新しい彼女の小林。 

常軌を逸している。

沖縄の海辺で「原さんの子を授かった」と嬉々として武田に伝えた小林の顔はそこになく、武田に対する敬意と同情、応援が芽生えていた。

武田が身ごもったポールとの子の出産に、れいくんは立ち会っていた。

尋常ならざる母の姿にれいくんは泣き叫んでいたのだけど、お母さんが子どもを産み落とした瞬間に彼は、泣き止み注意深く見入っていた。

暫くし、小林も出産となった。武田が経験者として小林に出産の指導を施し、無事に出産を迎える。

二人の出産シーンを余すとこなく当事者でもあり、同時に出産することの出来ない男でもある原が撮影する。 

自分と関係した女性への畏れと敬意を感じ取った。

あくまでも気丈に振る舞う武田は、あっけらかんとしている。何か見えない世界を切り開こうとしていたはずだ。

それに呼応するように小林もまた強い女へと変貌を遂げた。ただただ男は圧倒されるしかないのではないか。

スターリンやヒトラー、毛沢東、ポルポトのような残酷な独裁者、凶悪事件を起こす犯人も皆男。

常々疑問であったが、この映画を見て女性はそうはなれないと実感した。

この映画の武田や小林のように、人一人産むのにこれだけの苦しみがあるのだから、女性はそこまで残酷になれない。

この苦しみを知らない男しか残酷になれない。決して女を超えられない「業」が男にはあるのだと思う。

1974年、世界初の「ハメ撮り」と称されるこの映画。

実は、この三角関係を主観で表現すること自体が既に「ハメ撮り」だった。

カメラを回すことにより撮影者と被撮影者との間には、いつしかあらぬ関係性が発生し、被撮影者は過剰に演じ始める(好例、奥崎)。カメラを回す時点で「ヤラセ」なんだよね。森達也氏も言ってるけど。
俺の言いたい「ハメ撮り」は、主観撮影ということ。撮影は客観みたいな前提だけど、あの映画は原の主観、世界観で、貫いてるということ。「ハメ撮り」は、セックスしてハメた相手を撮影するという意味だけども、あの映画全体がセックスではないにしても「ハメ撮り」だった。原の主観で貫かれていた。

原一男ワールドの極北。映画の謳い文句にもなっている「極私の極致」は、この映画にあった。


映画 原一男『極私的エロス 恋歌1974』
製作年度:1974年、日本、本編98分
監督・撮影: 原一男
製作:小林佐智子
録音:久保田幸雄
音楽:加藤登紀子

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