大阪拘置所:山上徹也容疑者への差入れ
「面会でなく差し入れですね。12時55分にまた来てください」
大阪拘置所。
威圧感のある門の左脇に仮設の小さなブースの小窓から、お姉さんから古ぼけた小札を受け取る。
「大阪拘置所 6」
整理券ということらしい。指定された時間まで15分くらいある。真向かいの道を隔てた川沿いの公園に腰を下ろす。
この日は非常に蒸し暑かった。近くのコンビニで買ったお茶をガブガブと飲みながら、煙草を吸う。
川に沿うように高速道路が走っている。公園には鳩に餌をやるおっさんがいた。
どことなく東京拘置所の小菅の雰囲気と似ている。
約束の時間に拘置所に戻ると、今や遅しと10人ほどが集まっていた。私の真後ろの3人組。金のネックレスをつけた体格の良い50代後半くらい浅黒い肌のおっさんと、同じ年齢くらいのか細いおっさん2人と金髪の姉ちゃん。拘置所通いは慣れてるようで「今日は遅いなぁ〜。(入っても)もうええちゃん、ええちゃん」と金髪姉さんは騒いでいる。側から見たら3人組とは分からない。
私の前方には、60代くらいの上品なおばさんがうつむきながら憔悴しきっていた。「形ばかり」の検温検査を済ませ、札の番号ごとに小さなブースに入っていく。
6番の整理券と引き換えに、「221」と書かれた鍵を渡される。スマホ、バッテリー、煙草、ライターは左のロッカーに入れるように促される。銭湯の貴重品ロッカーと同じ要領だ。
該当するモノをロッカーに格納すると、空港の身体検査同様に危険物を持っていないかの確認を受ける。空港の厳密さからすると簡易に終わる。
ブースを出て赤いコーン沿いに歩けば、面会/差し入れ場所に着くのだが、道は二手に分かれていた。
念のため係員に確認すると「先ほどの説明聞いてなかったのですか?!あちらですよ!」と詰問調の誘導。
年季の入った昭和の建物に入ると、記入台が二箇所あり、右と左にカウンターがあった。何をしていいか分からない。右側のカウンターのおじさんに本とお金の差し入れしたい旨を告げる。
記入台にある赤い紙に記入し、カウンターに持って来て下さいとのこと。お金は直接、カウンターで手続きするらしい。
「差入願せん(書籍等)」という赤い用紙にようやく辿り着く。
被収容者名
ヤマガミテツヤ
山上徹也
題名等
・ゆきゆきて「神軍」の思想
・内ゲバの論理
令和4年9月1日
住所 東京都XXX
氏名 谷川イタル
職業 会社員
続柄 /
年齢 XX
以上を記入し、カウンターに持っていくと整理券が渡される。52番。呼ばれたら来て下さいとのこと。
場内は20人くらいの面会、差し入れの人がいた。
52番を呼ばれるまで、時間がありそうだった。
左右両脇の記入カウンターの真ん中に椅子があり、腰を下ろすと正面に差し入れコーナーがあった。
小さな売店でガラス越しに商品が置いてある。
雑誌
・アエラ
・週刊朝日
・女性自身
・SPA
・FLASH
・週刊大衆
・プレイボーイ
・SCREEN
・Fine
・ベストカー
日用品
・エッセンシャル
・ギャッツビー
・ミューズ
・ニベア
・ツバキオイルクリーム
・植物石鹸
・ジョンソンアンドジョンソ ベビーパウダー
・洗濯石鹸
・Panasonic シェイバー(他のものより一番高い5970円)
etc…
数十分前に訪ねた差し入れ屋「丸の家」同様、これらの商品にも間違いなく「根拠」があるのだろう。
それにしても、雑誌のラインナップに「女性自身」があって「女性セブン」がなく、「週刊朝日」があって「週刊文春」「週刊新潮」が無いのはなぜだろう?「根拠」があるのあるのだろうか?否、ひょっとしたら、週替わりで雑誌のラインナップが変わるのだろうか?「ベストカー」って。受刑者が晴れて娑婆出た後のイメージ(希望)を促す為の雑誌なのだろうか?車という翼を…
52番
無機的な機械音のアナウンス。差入れ品への妄想は私の待ち時間を短くしてくれたようだ。
そそくさとカウンターに向かう。
「お金の差し入れもあるとのことでしたので、先ずは、書籍を確認させて下さい。その間に差し入れ金に用紙の記入して下さい〜」
小慣れた感じの流れ作業で一枚のわら半紙一切れが手渡される。わら半紙など、高校以来の肌触り。
そんなセンチメンタルを思い起こさせるわら半紙と同時に、職員からの「書籍の確認」という言葉に一瞬たじろぐ私がいた。
山上容疑者に差し入れたのは、以下の2冊。
1冊目
奥崎謙三著『ゆきゆきて「神軍」の思想』(新泉社)
アジテート風の帯には以下のように記されている。
「皇居パチンコ事件、天皇ポルノ写真事件の元陸軍上等兵は、現在殺人未遂で懲役十二年。
判決の翌日から独房で書いた手記を映画『ゆきゆきて神軍』の完成記念の世に問う!もう一つの『戦後総決算』」
2冊目
埴谷雄高編『内ゲバの論理 テロリズムとは何か』(三一書房)
表紙には
・暗殺の美学
・暗殺の哲学
・憎悪の哲学
・目的は手段を浄化しうるか
などの仰々しい言葉が並列する
一冊目は、私自身が実際に読んで、著者の奥崎が獄中で放ったエナジーの軌跡として、今後長期になるであろう山上容疑者の獄中生活の一つの参考になるかもしれないと、差し入れすることにした。
二冊目は、本の表紙だけで差し入れすることにした。正直私には、難解な著作で読みきれなかった。しかしながら山上容疑者の過去のtwitterを読んで、このような著作を難なく読んでくれるのかなという一方的な期待として…
「はい。確認致しました」
杞憂だった。
山上容疑者への差し入れ金の用紙を記入している間に、差入れの本を「確認」している職員は、本に手紙やメセージ等の書き込みがないか「確認」しているだけで、本そのものを内容を「検閲」しているわけではなかった。
「差入れ願せん(書籍)」項目に、古本として「シミあり」と書き加えられる。同時に、古本屋で購入した時に二冊目に挟まれたレシートが返却される。
「差入れ願せん(書籍)」が完了したのち、お金の「差入領収書」のを5分ほどで手渡される
差入領収書
谷川イタル殿
金額 ¥10,000円
被収容者 山上徹也
令和4年9月1日差入
大阪拘置所歳入歳出外現金出納官吏
大阪拘置所を後にする。
山上容疑者が安倍元首相を銃撃した奈良の現場へ向かった。